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東京高等裁判所 平成10年(行コ)122号 判決

東京都文京区湯島三丁目二九番二号

控訴人

大倉興業株式会社

右代表者代表取締役

大倉京斗

右訴訟代理人弁護士

佐野榮三郎

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

大圖明

松原行宏

光吉正博

石黒邦夫

吉野隆司

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、六七四万一〇四七円及びこれに対する平成二年一〇月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は、次の二のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決書五一頁九、一〇行目、五二頁二行目、八行目の各「誤納金」を「過誤納金」に改める。)。

二  判断の付加

1  消滅時効期間について

控訴人は、源泉所得税の納税告知が課税処分ではなく単なる徴収処分であるとすれば、それに基づいて納付した金員の返還を求める関係は、何らの特別な行政行為の介入のない一般の民法上の関係であって、国税通則法の適用はなく、本件不当利得返還請求については民法による一〇年の消滅時効期間が適用されるべきである旨主張する。

しかし、控訴人の本件不当利得返還請求が国税通則法五六条一項の過誤納金の還付請求に該当し、過誤納金の還付請求については民法の不当利得に関する規定の適用が排除され、その消滅時効期間は国税通則法七四条一項により五年間であると解すべきことは原判決が説示するとおりであり、このことは源泉所得税の納税告知が課税処分であるかどうかに関わらないというべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。

2  消滅時効の起算点について

この点に関する控訴人の主張に対する判断は、原判決が詳細に説示するとおりであり、控訴人の過誤納金還付請求権の行使が、その対応する期間における控訴人の法人税更正処分の取消しを前提とする旨の控訴人の主張は、独自の見解というべきであって採用できない。

3  本件貸付金に係る源泉所得税等について

控訴人は、昭和六三年一〇月一日以後の控訴人から控訴人代表者に対する給与等の支払についての法人税の更正処分はされていないから、原判決が確定した租税債務が存在するとした本件貸付金に係る源泉所得税等(原判決別表の「本件貸付金に係る部分」欄記載のもの)についても前提となる給与等の支払事実の認定を欠くものであって、控訴人に右源泉所得税等に関する租税債務はない旨主張するが、源泉所得税の納税義務は給与等の支払という客観的な事実の存在によって発生するのであり(国税通則法一五条二項二号、三項二号)、これに対応する法人税の申告又は更正処分等の存在を必要とするものではないから、控訴人の右主張も採用できない。

第四結論

以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年一〇月一二日)

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 裁判官 寺尾洋)

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